群馬大学産学連携・共同研究イノベーションセンター[トップ] > センター機関紙2002 12月号
(財)日本特許情報機構 専務理事 寺本 義憲

1.始めに
 今年7月、総理大臣自ら参加された「知的財産戦略会議」は、研究活動や創造活動の成果を知的財産として戟略的に保護・活用し、我が国産業の国際競争力を強化することを国家の目標とする「知的戦略大綱」を決定した。この大綱は、大学における知的財産の創出、大学からの技術移転の促進などの具体的行動計画も示した。

 総合科学技術会議も、6月、大学に関連した、@知的財産情報の活用、研究成果の権利化と技術移転、A産学官の連携での知的財産のあり方、B大学が取り組むべき事項、を含む中間報告を発表した。



2.期待される大学、TLO
 IMDの報告によれば、今年の我が国の国全体の国際競争力は30位であった。技術力の方は2位を維持しており、今改革をやらないと駄目との認識にある。

 80年代、米国は同じ状況にあり、次世代の成長のキーポイントは、科学技術、知恵、しかもその実用化にあるとし、一連のプロパテント政策を進めた。また、バイドール法を制定し、国家予算による研究成果を大学に帰属させ、社会への還元を促進した。この結果、産業界への技術移転が進み、ベンチャー企業のスピンアウトも進んだ。 米国には、「大学で生まれた発明の知恵をもとに、新たな製品・事業・企業を生み出し、地域社会に利益をもたらし、地域の競争力を高めていく」という認識が定着している。「誰にでも出来ることは誰もやらない」と、研究成果を特許化する必要性も、大学に特許化・企業化を組織的に支援するTLOの機能が不可欠であることも、深く理解されている。

 我が国は、基本特許を導入し改良発明をすることで、高度成長を実現してきた。最近は、基本発明の導入も簡単でなく、中国による追い上げも厳しい。企業も、高額な報奨金制度を導入するなど基本発明のインセンティブを高める努力をしているが、基本技術の開発は、リードタイムも長く、資金投入量も多く、必ずしも商品化に結びつくものではなく、リスク負担が極めて困難になっている。

 独自の研究を進め、基本特許の創出に最も近い大学に期待が集まる。「大学に行けば技術がある」というのが御手洗キヤノン社長の期待でもある。「大学の
研究成果が企業のリスクを負担し、企業は特許により利益を確保でき、国民や地域の人は事業化や製品による恩恵を受け、大学は企業や国民より研究費を
提供される」システムが期待される。

 米国から遅れること約20年、我が国でも、TLO法、日本版バイドール法、産業技術力強化法が成立した。承認TLOに認定されれば、技術移転に要する経費などの補助、特許手続費用の減免が受けられる。特許流通アドバイザー派遣の要請も可能である。

 多くのTLOが設立され、大学における特許への取組も進み、特許出願、ライセンスの収入を得る案件、企業との共同特許出願など増加している。幾つかの大学の移転機関をみても、@特許取得とライセンシング活動としての特許管理機能、(卦共同研究の形成・実施の支援機能、Bベンチャーインキュベーションとしての起業の支援機能、などが整い、TLOの活動も新たなステージに入りつつある。

3.取り組むべき課題
 総合科学技術会議の中間報告では、「大学・公的研究機関の取り組むべき10項目」というのを取り上げている。

(1)特許情報の活用
 取り組むべき事項の一つは、知的創造活動における特許情報の活用である。特許情報の活用により、重複研究の排除が期待できるとともに、新たな開発のヒントも期待できる。特許を評価指標にするとともに予算の選択的配分も行われる。

 特許情報を調べるツールはいろいろあるが、無料で、毎月約300万回とよく使われているのが、特許庁の特許電子図書館(IPDL)サービスである。特許庁が持つ4700万件の特許情報が閲覧できる。各国の特許庁も同様のサービスしているが、シンガポールのサーフIPというのは、主要国の特許、科学文献をまとめて検索でき、中国語や韓国語の英語・日本語への機械翻訳などのサービスもある。(www.jpo.go.jpを参照)

 特許庁のホームページには、先端科学技術4分野(ライフサイエンス、情報通信、ナノテクノロジー・材料、環境)の他、エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティアを加えた8分野の特許出願動向も公表されている。

(2)技術移転のルール・組織の整備
 二つ目は、研究者と大学、或いは、移転先とのルールの整備、組織の整備である。「大学は公的な性格を持ち、社会への貢献が使命であるし、特許は私的な利益を追求するもので、両立はできない」という主張も根強い。大学は研究成果を特許化により、企業化を促進し、その実用化を通じて社会への貢献を果たすことができる。一方、研究者は、自らの研究のオリジナリティで特許を確保し、企業化に伴う収益を研究費として役立てることができる。これら双方を実現できる仕組みを作れば、大学と特許は、両立可能である。そのためには、大学で生まれた特許の帰属、特許化のための手続・費用、収益に村する研究者への配分などのルールと、具体的に特許化・技術移転を進める有効な組織が必要である。

 「研究成果が論文として発表されただけでは、国民は豊かにはならない。日本だけでなく外国でも特許にしないと、日本の繁栄にはつながらない」とは、東北大学の大見教授の弁である。ノーベル賞は、学問的あるいは産業的に波及効果の大きい研究業績が受賞対象とされている。自然科学分野の受賞者の多くは、特許出願を行っている。日本人受賞者では、理論物理学の受賞者を除き、江崎、福井、利根川、白川、野依の各博士は、いずれも特許出願を行っている。

 大学による発明の帰属は、「教官個人」が原則とされており、8割は発明者に帰属している。しかし、一般に大学の研究者にとっては、出願費用の捻出、ライセンス供与先の選定、契約書の作成等の事務負担は重い。知識の源である研究者には、「とにかく論文」という姿勢がある。「研究者がお金儲けなんてとんでもない」という倫理観も残っている。「先行する論文があり、特許にならないと言うので調べると本人のもの」、「優れた研究だというので調べたら、多くの先行特許があった」とはよく聞く話である。

 大学発の研究成果を有効活用する観点から、大学等の機関帰属へ移行すべきとされている。「研究者がTLOに成果を委ねるルートが主流となれば、大学における特許の帰属の問題も解決の方向がでるし、大学が特許の実用化に責任を持ち、これに伴う収益 を研究者に配分できれば、特許の所有権を大学とす ることへの抵抗も少なくなる」との見方もある。

(3)資金と人材の確保
 三つ目は、資金と人材の問題である。「TLOを作れば安心、大学が特許を使って何とかすれば儲かる」とはならない。幾つかの大学で成功例が出てきているが、ロイヤルティに結びつくのは少ない。ヒット発明が出るか、良質な移転が継続するか、収入源への不安は残っており、経済的な自立を目指さないといけない。

 国立大学は法人格がないので、多くは教員の出資による株式会社形態で運営資金を調達している。最近は、複数大学、地域連携でのTLOの設立や広域でのTLO同士の連携が目立つ。技術の移転先が拡大し、移転は容易になるものの、TLO同士の競争となる。

 「TLO活動は、教育、研究と並び大学にとってインフラとなる第3の事業で、発明の提案を通じて、大学で行われている研究を一番良く掌握できる機関を目指す」。まずは、こんな事業展開が一番望まれているのかもしれない。

 大学には、「大学は敷居高い」、「何を頼んでよいのか分からない」、「研究の進め方も違うし、情報管理ができていない」、TLOにも、「人手不足で特許化に時間がかかる」、「営業力がない」、「企業の気持ちを理解してくれない」の意見・不満がある。

 情熱があり、技術・ビジネス両方を理解し、学内・学外の広い人的ネットワークを持つ人が必要だろう。特許庁の実施する「知的財産管理アドバイザー」の活用も考えられる。

(4)大学からの情報の発信
 企業が新しいものを見つけるときの情報源は特許。米国の先生は特許を取っているので、「あの先生のところに行けば分かる」。でも、日本の先生は取らないので、「大学の活動が見えない、窓口が分からない」。大学も、「売る努力」、「知らせる努力」が必要となる。 (独)工業所有権総合情報館が特許庁の予算で行う「特許流通アドバイザー」や「特許流通データベース」の活用もある。「特許流通データベース」は、ライセンスや譲渡の用意のある特許のPRの場、導入を希望する特許を自由に探せる場である。登録件数は約46,000件、技術内容、応用分野、譲渡・実施許諾の情報や権利者の情報などが掲載され、公報は勿論、現在の審査の状況も確認可能である。利用回数は月約40,000回で、特許流通アドバイザーも利用している。(www.ryutu.ncipi.go.jp



4.終わりに
 新しい事業展開には、発明の知恵、応用の知恵、事業化の知恵が必要である。これからは、一企業が、事業に必要な研究開発を全て行うのは不可能である。
   @企業の中央研究所の知恵に代わる大学の知恵
   A企業の開発センターの知恵に代わる公的研究所の知恵
   B事業化に集中した企業の知恵
これらの知恵の連携、産学官の連携が期待される。

@特許など法律によって認められた知恵。
Aノウハウなど法的な権利ではないが、実施化に向けた重要な知識。この知恵には体験など言葉にならない知恵もある。
B基礎データを得るための地道な研究、斬新な研究で失敗した経験など、権利にもならず、売買もされない知識で、暗黙知が沢山ある。知恵作りというハイリスクなプロセスに転換するためには、多くの挑戦や失敗から得られた、知的体験が必須である。
 これら三つの知恵の交換、蓄積にはお互いの物理的距離が重要である。距離が近ければ、知恵の交換が進むし、密度の高いコミュニケーションが頻繁になる。「国の競争力の源泉は地域にある。地域の競争力の源泉は知的財産による革新にある。」(日刊工業新聞社「自治体の知的財産経営」)

 これからは、地域における産学官の連携の時代である。群馬大学を知恵の発信源として、ご当地の方々が協力され、大いに発展されることを期待しております。

Copyright (C) , University-Industry Center for Innovation of Gunma University. All Rights Reserved.